昭和55年7月、直木賞の選考会で、委員になったばかりの山口瞳さんはあせっていた。「明らかに私より小説が上手」と認める作家が、落選しそうだ。「向田邦子は、もう51歳なんですよ。そんなに長くは生きられないですよ」。 
▼山口さんの口からとっさに出た一言は、かなり効果があったらしい。向田さんの受賞が決まった。山口さんがエッセーで明かしている。今回の芥川賞に決まった若竹千佐子さんは63歳、史上2番目の高齢者受賞となった。といっても、選考会で年齢はまったく議論にならなかったという。 
▼受賞作の『おらおらでひとりいぐも』は74歳で1人暮らしをしている桃子さんが主人公である。東北から上京して夫と出会い、2人の子供を育て上げ、やがて夫を看取(みと)る。読者に女の人生を語っているようで、実は人類の歴史をたどる旅にも誘う。東北弁と標準語の地の文が複雑にからみあう、デビュー作とは思えない完成度である。 
▼岩手県出身の若竹さんは、8年前に夫を亡くしてから、小説講座に通い始めた。何かを究めるのに年齢は関係ない。銀行退職を機にパソコンを始めた女性が、81歳でゲームアプリを開発して話題になった。89歳のアマチュア写真家の作品が海外から注目されている。シニアの活躍がめざましい世相を反映しているようだ。・・・

情報源: 【産経抄】小説の神様は待っていてくれた 1月18日 – 産経ニュース