81歳のときに開発したスマートフォン向けアプリで世界の注目を集め、マーちゃんの愛称で呼ばれる藤沢市在住の若宮正子さん(83)が、地元の湘南工科大(松本信雄学長、同市辻堂西海岸)で特別講義の講師を務めた。大講義室を埋めたのは、今年入学したばかりの1年生約600人。「みなさんには情報の消費者ではなく生産者になってほしい」と呼び掛ける“マーちゃん先生”の言葉は、孫世代のエンジニアの卵たちにどう届いたか。
若宮さんがインターネットを始めたのは60歳のころ。高校を卒業して勤めた大手都市銀行を定年退職し、同居の母親を介護する中で「社会とつながっていたい」と思ったからだった。購入したパソコンで基礎から独学。メール交信に「ようこそ、マーちゃん」と初めてメッセージがあったとき、涙が止まらなかったという。取り巻く世界は少しずつ広がっていった。
アプリ開発は、インターネットに詳しい知り合いに「高齢者も使えるアプリを作ってほしい」と頼んだことがきっかけ。「お年寄りの好みは分からないから自分で作ったら」と勧められ、ならばと81歳でプログラミングに挑んだ。知人に聞いたり、専門書を読んだりして半年かけて製作したのが「hinadan」。画面のひな人形をタップして、ひな壇の正しい場所に置いていくシンプルなシニア向けのゲームだ。
昨年2月にアップルから配信されると、高齢者でも楽しめるアプリ開発が高く評価され、多くのメディアが「世界最高齢のプログラマー」と取り上げた。6月に米アップル本社の世界開発者会議に招待され、9月には政府の「人生100年時代構想会議」の有識者議員に選出。今年2月には、米ニューヨークの国連本部で高齢化社会とデジタル技術をテーマにスピーチした。
湘南工科大で4月25日に行われた特別講義。「ゼロから創造することは人工知能(AI)にはできない。だからこそ私は創造的でありたい」「これからのデジタル技術はAIが気がつかない、ある意味ぶっ飛んだようなものでなければ」。身ぶり手ぶりを交えた話に学生たちは引き込まれ、終了後には「どういうときにアイデアを思いつくのか」「失敗しそうになったときに、どうモチベーションを保つのか」と矢継ぎ早の質問が飛んだ。
「真面目に熱心に聴いてもらった。4倍ぐらい年が違うのに友だちと話しているみたい。年齢の格差はないのね。コンピューターという共通言語があるから」と若宮さん。学生たちには「才能を持った開発者になってほしい」とエールを送った。自身の人生もこの1年で劇的に変わったが、歩みをやめるつもりはない。創設に参画したシニア世代のサイトの副会長や、NPO法人ブロードバンドスクールの理事を務め、高齢者へのデジタル技術普及のため飛び回る日々だ。
「hinadan」は7万ダウンロードを突破し、日本語、英語、中国語版のほかに今後、ロシア語、アラビア語、スペイン語バージョンもリリースするつもりという。「理系女子というけれど、これからは理系老の時代。高齢者もテクノロジーを理解すれば、いろいろな世代の人たちと交流できるし、可能性は広がり、人生は楽しくなる。そのために私も進化しなくては」。マーちゃんが見ているのは、それよりもずっと先の未来なのだろう。

情報源: マーちゃん先生:スマホアプリ開発83歳 湘南工科大で特別講義 「情報の生産者になって」 /神奈川 – 毎日新聞