■10兆円弱と試算、毎年1兆円規模で拡大する可能性-クレディS
■「間接的な資産移動が起きている」とクレディSの白川氏

宮崎県の市役所で嘱託職員として働く田口美香代さん(60)の楽しみは孫への買い物だ。誕生日には小学生の男の子にサッカーシューズ、幼稚園の女の子にはぬいぐるみを買った。年間5万円ほどの出費になるが、「喜んでほしい」のだという。同世代の仲間からは「お金がないと孫の面倒はみられない」という話を聞く。
貯蓄の多い高齢者が子や孫のためにお金を使い、消費を後押ししている。堅調な景気を背景に、遺産を残すのではなく子や孫と一緒に過ごす思い出を重視する意識の変化が理由とみられている。
クレディ・スイス証券の白川浩道チーフエコノミストは、世代間で「間接的な資産移動が起きている」と英語で取材に答えた。高齢化した団塊の世代が、新卒時に景気が低迷していた30ー40歳代の「失われた世代を支えている」構図だという。
白川氏は子や孫が、交流を求める高齢者を頼る現象を「新型パラサイト消費」と名付けた。3月のリポートでは、総務省の家計調査から「高貯蓄・高齢世帯」の交際費の伸びが最近の特徴と指摘し、背景に新たな消費傾向があると分析。新型消費を貯蓄残高3000万円以上世帯の交際費と定義した場合、市場規模は10兆円弱で毎年1兆円規模で拡大する可能性もあると推計した。
次世代に遺産を残すという意識が薄れたことが消費増加の一因と白川氏は指摘した。団塊の世代以降は「なぜ子どものためにお金をためなくてはならないのか」と思っている一方、ほかにお金の使い道がなく、結局、外食など子や孫と楽しく過ごすために使うのだという。
国内総生産(GDP)の6割を占める個人消費は日本経済の行方を左右する。2%物価上昇を目指す日本銀行の黒田東彦総裁にとっても注目材料だ。人口減に伴い内需縮小が予想される中、企業も高齢者の財布のひもを緩める方法を模索している。
欧米と同様、日本の資産の多くは高齢者が保有しているという背景もある。割を食ったのは子や孫の世代だ。バブル期以降は給与下落に苦しみ、今では非正規雇用者が3分の1を超えた。
東京大学の玄田有史教授(計量経済学・労働経済学)によれば、16年の40代前半の労働者の賃金は、10年前と比較して13%減少した。親の世代への負担も増えており、内閣府の調査(2016年)では、60歳以上の高齢者のうち21%が学生ではない満18歳以上の子や孫の生活費を少なくとも一部は賄っていると答えた。
宮崎県の田口さんもできるだけ孫とは一緒に過ごし、子供を助けたいと思っている。「孫が楽しくじーちゃん、ばーちゃんといってくれる年代って限られていると思うんですよ」。当分、財布のひもは緩んだままになりそうだ。

情報源: 遺産より思い出、高齢者の意識変化で子や孫へ新パラサイト消費広がる – Bloomberg