◇綾部市の限界集落で特産品作りに取り組む 渡辺ふじ子さん 91
山あいに3戸4人の高齢者が暮らす綾部市の古屋地区。ことさら変わりやすい秋空の下、雨が降りそうになればシートをたたみ、日が照り出すと再び広げる。
高齢の自分たちに代わり、ボランティアが集めてくれたトチの実。1~2か月かけて庭先で乾燥させた後、皮をむいて灰であくを抜き、おかきやあられにして全国に届ける。「限界集落」と呼ばれる古屋を「元気集落」にしようと作業を始めたのは80歳の時。それから10年を超えた。「あっという間。しんどいことはなかったね。今より若かったから」
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丹後と京を結ぶ街道として江戸時代には70戸が軒を連ねたという古屋で、7人きょうだいの5人目として生まれた。冬は積雪が2メートルに達する中、小学校まで集落外に続く唯一の道を2時間半かけて歩いた。会社勤めのためいったん集落を離れたが、終戦を迎え、20歳前で戻った。兄3人は戦死し、姉が嫁いだ後、「長男」として父母と田畑を守った。1948年に夫の英夫さんを婿に迎え、2000年に亡くすまでは炭焼きや植林、わさび作りに汗を流した。「子どもの面倒をみながら力仕事もやった。厳しかったけど、仕事やからね」
その間、集落は農林業の衰退や家屋を押し流す水害、停電をもたらす雪害に直面。成長した3人の子どもは仕事を求めて離れ、住民も一人、また一人と去った。
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外から人が訪れることさえ少なくなっていた古屋に光が当たったのは07年。高齢化が著しい集落の振興を目指して市が施行した「水源の里条例」に基づき、帰郷した次男の和重さん(67)と高齢女性5人の5戸6人で、山の恵みとして身近だったトチの実の特産品を開発することになった。
空が白み始めた頃に起床し、8時過ぎには徒歩数分の公民館に弁当を持って出勤。住民全員で加工や袋詰めに手を動かす。夕方前に帰宅後は畑仕事に精を出し、農繁期にはバイクで坂道を下り、田んぼの様子を見に行く。年を重ねても、古屋で過ごす毎日は忙しい。
トチの風味を生かした素朴な味わいの商品は、限界集落のおばあちゃんたちが作る特産品として全国から注文が舞い込む。イベントにも出店し、記念写真を求められると他の住民と一緒に笑顔で応じる。「みんながスターや言うてくれるけど、注文があるから一生懸命せんなん。そう思ってしてきただけ。ありがたいこと」
廃村にしまいと踏ん張る住民らを応援しようと、トチの実拾いや獣害防止網設置のボランティアが府内外から駆けつけるようにもなった。今年8~9月に計11回募ったトチの実拾いには約300人が集まった。昨年10月の台風で集落に続く道は土砂崩れが起こり、トチの巨木群も枝が折れたが、収穫量は約1700キロと昨年の3倍近く。作業を終えた人にトチ餅ぜんざいを振る舞い、深々と頭を下げた。
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先月25日、集落で秋祭りが開かれた。神社の周りを住民が分担して計100周し、発展と安全を祈る行事。伝統を絶やさないように総出で続けてきたが、特産品作りを始めたこの10年余りで2人が亡くなり、1人あたりの周回の数も増えた。
集落に病院や店はなく、携帯電話も通じない。これからどうなるのか不安も感じる。だが、古屋から出たいとは思わない。生まれ、育ち、守ってきた古里の歴史は、自分の人生の軌跡そのものだ。「ここで一生懸命、暮らせるのがええね。100歳まで仕事を続けられるなら、これからはもっと、あっという間やろね」

情報源: 元気集落 古里と共に : 地域 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)